釣り銭を巡る戦い

 

 フランス語には「あなた」を示す代名詞としてvousとtuの2つがあります。vousはちょっと堅苦しく、見知らぬ人に話しかける場合、tuは友人など親しい人に使います。

 

 会社の中などでは普通、相手が上司や年上であってもtuを使うのが一般的ですが、会社の伝統として常にvousを使う堅苦しいところもあるとか。また、役人の中には相手が黒人だと、初対面でもtu呼ばわりする人が、ままいます。フランスには旧植民地からの移民である黒人が多いため、見下しているということなのでしょう。

 

 フランスで生活していると、この肌の違いを時々思い知らされることがあります。オペラ座やルーブルなど、特に観光客が多い場所では「フランス語話しますか?」とよく聞かれます。道ばたで道を聞かれる時などは、そんな前置きはなく、いきなりフランス語で道を聞いてくるフランス人気質に慣れてしまうと、ちょっと戸惑ってしまう質問です。そんなとき、「ああ、やっぱり自分は東洋人なのだ」と認識してしまいます。

 

 東洋人に対しては、いきなりtuを使われることはない代わりに、よく釣り銭をごまかされます。友人の白人、黒人に聞きましたが、そんな経験のある人はいませんでしたので、こと東洋人にだけ起きるようです。

 

 30フランの買い物をして200フラン札を出したとします。するとレジのお姉さんが、70フランだけ釣り銭を出してしらっとしているのです。そんな時はその場で「200フラン出したんだけど」と言うと「あら、そう?」と言って素直に100フラン追加してきます。「本当に200フラン出した?」などとは聞いて来ませんので、正に確信犯。しかも、これは小さな商店に限らずスーパー、デパート、果てはルーブル美術館や地下鉄窓口など公立機関でも日常的に起きるのです。

 

 毎回気をつけているつもりでも、そこは根っからの日本人。たまに釣り銭の確認を怠ってしまいます。

 

 パリでも有名な観光地のひとつ、モンマルトルの丘にのぼるケーブルカー。これは市内を走る地下鉄と同じくRATPが運営している立派なメトロ。そこで切符を買ったら、やっぱり窓口にいた黒人のおにいさんに釣り銭をごまかされてしまいました。ただし、気づいたのはケーブルカーに乗ってから。

 

 慌てて窓口に戻って交渉したのですが、もちろんおにいさんは「知らぬ、存ぜぬ」。10分ほども粘ったでしょうか、お兄さんの名前を聞いて諦めようかと思ったら、帰ってきた答えは「Tu es fou?(お前、アタマがおかしいのか?)」。このままでは収まらないと、家に帰ってRATP宛に抗議の電子メールを出してみました。

 

 半月ほどして帰ってきた文書には「終業時に釣り銭を確認したが問題はなかった。モンマルトルは観光客も多く危険な地域、以後気をつけるように」。うーん、個人の身は個人で守る、立派な(?)フランス人気質を垣間見たのでした。

 

 

             

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